CiscoのSOHO/Small Business向けアクセスポイントであるCBW150AX(Cisco Business Wireless 150AX)を購入したのでレビューします。
1. 価格と外観
2. 初期設定は要注意
3. WPA3 Enterpriseがない!
4. 使ってみる
5. 最後に
1. 価格と外観
パソコン、スマホ、タブレット等のWi-Fi接続にWPA2/WPA3 Personalを一切使わずWPA2/WPA3 Enterpriseといったエンタープライズ認証しか使っておらず、そうしたこともあって、NETGEARの商用アクセスポイントであるWAC505,WAX214,WAX610等を使っており、特に問題はないものの、Ciscoから低価格のアクセスポイントが発売されたので、購入してみました。
CBW150AXは価格が2万円未満と低価格で、手の届く価格であることが魅力です。Amazonでセールの時に購入し、おおよそ1万8千円でした。
このCBW150AXは、れっきとしたCiscoの製品ですが、Cisco自身がアピールしているように、ライセンス購入必須・保守契約必須・サブスク必須、といったことが一切ありません。商品を購入してしまえば、その後はサブスク等なしで使うことができます。ファームウェアのアップデートも無料です。
表面と背面はこんな感じです。
NETGEARのWAX610と並べてみました
CBW150AX、電源はPoE(IEEE802.3af)駆動のみで、ACアダプタをつなぐための端子自体がありません。そのため、購入したCBW150AXには、PoEインジェクターが同梱されています。PoEスイッチを持っていなくても、CBW150AXを購入すれば、必要なものが揃っているので、設定できます。(PoEインジェクターはそこそこ値段がするものなので、PoEインジェクター同梱で2万円弱なら、PoEインジェクター無しにすれば、1万円ちょっと、うまく行けば9800円くらいの値段で販売できるのではと思います。)
ちなみに、このPoEインジェクターには、中国の会社名が記載されていました。さすがにCiscoのロゴまでは入っていませんでした。
2. 初期設定は要注意
初期設定の流れは、
(1)初期設定用のSSIDに接続して、SSIDの作成を行う。
(2)CBW150AXが再起動されたら、作成したSSIDに接続する、もしくはCBW150AXのIPアドレスを指定してWeb設定画面を開く。
となります。(1)はすんなり完了しました。
(2)でCBW150AX自身のIPアドレスを指定してWeb設定画面を開こうとしたところ、開くことができません。CBW150AX背面にリセット用のボタンがあるので、これを用いて一旦CBW150AXをリセットしたものの、相変わらずIPアドレスを指定してWeb設定画面を開くことができませんでした。
CBW150AX自身のIPアドレスを指定してWeb設定画面を開くことを断念して、作成したSSIDに接続してようやくWeb設定画面を開くことができました。
CBW150AXのIPアドレスを指定しても開けなかった理由を探ったところ、CBW150AXには、コントローラ用(たぶん)とアクセスポイント用の2つのIPアドレスが割り振られているのが原因であることがわかりました。
設定画面で表示させた以下の図がわかりやすいと思います。
モビリティ状態の「プライマリAP(LOCAL)」とあるのが、おそらくコントローラに相当するものと思われます。もう一方の「AP(FlexConnect)」とあるのがアクセスポイントです。
CBW150AXの実MACアドレスは「AP(FlexConnect)」側となり、この実MACアドレスに割り振られたIPアドレスを指定してもCBW150AXの設定画面を開くことはできません。
IPアドレスを指定してCBW150AXの設定画面を開くには、「プライマリAP」側のIPアドレスを指定する必要がありますが、「プライマリAP」にはVRRPで使われる仮想MACアドレス(00-00-5E-00-01-XX, XXはVRID)が割り当てられており、この仮想MACアドレスに対して割り振られたIPアドレスが「プライマリAP」側のIPアドレスとなり、このIPアドレスを指定することでCBW150AXの設定画面を開くことができます。
Small Business/SOHO用のアクセスポイントといいながら、ソフトウェア的にはコントローラとAPが分かれており、FlexConnectといった用語が使われているあたり、CBW150AXのOS(ソフトウェア)は、Catalyst/AironetといったCiscoの本流製品で使われているIOSではないものの、IOSをベースとしたものなのではと思われます。(IOSを使ったことがなく、推測ですが。)
設定画面を一通り見ていったところ、Wi-Fi6のBSSカラーリングの詳細設定ができたり、IEEE802.11rのover the DSのON/OFFができたりと、かなり細かな設定ができるようになっており、設定画面を眺めているだけでも楽しめます。
3. WPA3 Enterpriseがない!
IPアドレスを指定してCBW150AXの設定画面が開けるようになり、実運用しているSSIDを設定していきます。ところが、ここでも問題発生です。WPA3 Personalはあるものの、WPA3 Enterprise(特にWPA3 Enterprise 192-bit)がないのです。(本稿執筆時のCBW150AXの最新ファームウェアは、10.5.2.0です。)
Wi-FiアライアンスでのCBW150AXの認証情報を確認すると、192-bitモードはないものの、WPA3 Enterpriseでも認証は取得しています。
WPA3 Enterprise、特にWPA3 Enterprise 192bitモードをサポートしていないのは、大きなマイナスです、というかいまどきのWi-Fi6対応商用アクセスポイントでWPA3 Enterprise 192bitモード未対応はあり得ないです。
NETGEARだと、802.11ac世代のWAC505でも、当初はWPA3自体が未対応だったのが、ファームウェアのバージョンアップで、WPA3 Personal(SAE)だけでなく、WPA3 Enterprise 192bitモードに対応しているくらいです。早急にCBW150AXもWPA3 Enterprise(特にWPA3 Enterprise 192bitモード)に対応して欲しいです。
4. 使ってみる
CBW150AXは消費電力が9.8Wと小さいです。稼働中の筐体に触ってみても、ほんのり暖かいといった感じです。もちろんファンレスです。筐体が相当熱くなるNETGEARのWAX214,WAX610と比べると、ほんのり暖かくなる程度のCBW150AXの方が製品が長持ちしそうです。NETGEARのWi-Fi6対応アクセスポイントであるWAX214、WAX610だと、12W~15W程度あるのと比べると、これは大きなメリットです。メーカーによって、どうして消費電力にこうも差が付くのか、不思議です。設計力・技術力にそう大きな差があるとも思えません。Ciscoの方が、エンタープライズ市場でのネットワーク機器のトップメーカーということもあり、部品調達で有利な立場にあり、その分他社よりも低コストで低消費電力等有利な設計ができるのだろうかと思います。
WPA3 Enterprise未対応という致命的な問題点があるものの、その点を気にしなければ、問題なく使えます。数日使い続けてみましたが、動作・接続が不安定といったことはありませんでした。
CBW150AXの設定画面は日本語化されています。NETGEARは設定画面が英語なので、これと比べるとたしかにありがたいのですが、ところどころにおかしな日本語が出てきます。「販売支援」は「Enable」の誤訳です。
ファームウェアのリリースノートを読んでみると、日本語の設定画面に対応したのは、2022年7月リリースの10.2.2.0以降となっており、1年近く経過しても、おかしな日本語が残っているのは残念な気がする一方で、日本のAmazonでCBW150AXの取り扱いを始めたのは2023年5月からとなっているので、仕方ないというか、今後の修正に期待です。(もちろん、WPA3 Enterprise対応も含めて、です。)一方で、設定画面の言語を自分で選択できるようにして欲しいとも思います。ブラウザの言語設定を英語にすれば設定画面も英語になりますが、いちいちブラウザの言語設定を変更するもの手間なので。
ファームウェアの話が出ましたが、ファームウェアのリビジョンアップ作業は少し手間がかかります。NETGEAR製品ですと、設定画面で「アップデートする」ボタンを押すだけで、ダウンロードから適用・AP再起動までやってくれますが、CBW150AXはそうではありません。手動でファームウェアのファイルをダウンロードし、解凍する必要があります。解凍するとファイルが複数出てきますが、そのうちのどのファイルを設定画面で選択すればいいのかが、一目見ただけではわかりません。ファームウェアのアップデート手順を記したCBW150AXのドキュメントを読んで解決したものの、SOHO/Small Business向けを謳うのであれば、「アップデートする」ボタンを押すだけでアップデートできるようにすべきと思います。
CBW150AXを購入して、ユーザー登録しようとしたところ、SOHO/Small Business製品向けのサポート情報を網羅したドキュメント・サイトがないことに気付きました。CiscoコミュニティでSmall Business向け製品のサポート窓口の電話番号は見つけられ、Small Business製品向けの保証内容等を記載したドキュメント自体はあるものの、Small Business向け製品のユーザー登録、問い合わせ等について日本語でわかりやすく説明したドキュメント・サイトはありません。こういった辺り、SOHO/Small Business向け製品を売るのであれば、しっかり整備して欲しいですね。いちおう、CBW150AXには3年間のハードウェア保証が付いていることになっていますが、保証適用条件(シリアル番号登録必須等)やユーザー登録等について情報が不足しており、ハードウェア保証が本当に適用されるのか、ハードウェア保証が絵にかいた餅になるのではないかと不安です。Catalyst/AironetといったCiscoの本流製品は、おそらく大半が代理店(ITディストリビュータ)経由での販売なのだろうと思いますが、こうしたSOHO/Small Business向け製品は個人に対して直接販売することになるわけであり、Cisco自身で本気で直販・サポートするくらいの覚悟・本気さ(Apple並みのサポート体制)で取り組んでほしいと思います。
5. 最後に
CBW150AXを一言でいうと、「腐っても鯛」ならぬ「腐ってもCisco」(誉め言葉)です。
NETGEARのWAC505、WAX610といった製品を数年間使ってきた上でCBW150AXを触ると、SOHO/Small Business向け製品としてよく考えられているとは言いがたく、かなり改善の余地があります。一方で、CBW150AXはCatalyst/Aironetといった本流製品ではないものの、れっきとしたCiscoの製品で、ソフトウェアはIOSベースなのではと思われるところがあり、まさに「腐ってもCisco」です。
WPA3 Enterprise未対応という欠点があるものの使っていて接続が不安定といった問題はないです。ただ、サポート情報が不足している等々購入した後のことを考えると、あまり人におすすめはできず、個人で商用アクセスポイントを購入するのであれば、NETGEAR等他社製品を検討することを推奨します。CBW150AXは今後の改善に期待です。
【CBW150AXの良いところ】
(1)Wi-Fi6対応のアクセスポイントにしては、消費電力が9.8Wと小さく、IEEE802.3af対応のPoEスイッチでフルスペック動作すること。
(2)価格が2万円弱と手の届く値段であること。
(3)設定画面でかなり細かく設定できること。
【CBW150AXの残念なところ】
(1)WPA3 Enterprise(特にWPA3 Enterprise 192-bit)に未対応であること。致命的な欠点です。
(2)設定画面におかしな日本語が出てきたり、ファームウェアのアップデートにひと手間かかったりと、SOHO/Small Business向け製品としての作り込みが不足していること。
(3)ユーザー登録・サポート等についてわかりやすく説明されたドキュメント・サイトがなく、購入後のサポートについては未知数であること。